ラウト……ラウト、大丈夫……?
夢の中で何度も何度も語りかけてきた。
温かな手が頭を撫でる度、嘘のように不安が引いていく。
その唇が紡ぐ言葉に偽りはなく、心のままに発す。
その笑顔は、弱った心を癒す。
せめて、夢の中では。
ラウトは『彼女』の笑顔に身を任せ、そっと目を閉じた。
木々のざわめきで、ハッとした。
完全に気を抜いてこんな時間まで眠ってしまったことに、少なからず罪悪感を抱いていた。
辺りに視線を巡らせてみるが、どうやら何も起こっていないようだ。
(ま……何か起こっていたら嫌でも目が覚めますよね…………ん?)
ここで、肩に重みを感じた。
夢の中でありながら、読んだ誰かの『思考』。
嫌な予感しかしない。
一度心を落ち着かせようと深く息を吐き出した。
そして、機械のごとく硬い動きで隣を見る。
飛び込んできた予想通りのものに、一瞬で反対側を向いた。
予想以上に近くて、心臓が飛び出るかと思うほどに驚いてしまった。
普段できないような高速な動きも、簡単にできてしまうから不思議だ。
(何故彼女がここに……!? な、何故俺の肩によ、寄りかかってるんですか! イル……一生恨みますよ……!)
何にも襲われなかった、それはつまり、イルが起きていたからだ。
それなのに隣でカリンが眠るのを止めなかった。
完全なる逆恨みだが、こればかりは仕方がない。
何か別のことを考えていなくては、肩の重みを意識してしまう。
「っ……ああ、もうこの駄目女! さっさと起きてください、殴りますよ!!」
「うーん……」
「うわっ、ちょ、待っ……!」
拳を振り上げたせいでバランスを崩し、カリンを支えていられなくなった。
加えてカリンが寝返りを打つつもりか体を動かしたので、そのまま後ろへと倒れ込んでしまう。
起き上がろうにも、頭を強く打ったため思うように力が入らない。
この格好は大変まずい。
肩に寄りかかって眠られたことも、まして女性に押し倒されたことなんて一度も経験したことがない。
男ばかりに囲まれて育ち女性に免疫のないラウトにとって、これは拷問だった。
壊れてしまうのではないかと思うほどに、心臓が早鐘を打つ。
こんなところを誰かに見られたらと思うと、気が気じゃない。
どうすべきだ、どうしたら。
頭が混乱し、いつも通りの冷静な判断ができなくなっていた。
「うーん……らう、と……?」
唐突にカリンの目が開き、ラウトの心臓は驚きを示した。
「おはよー……ちょっと質問してもいい?」
「っ……何ですか」
「何でラウト、私の下にいるの?」
「……貴女が寝惚けて押し倒したからでしょう」
(この人……どうしてこれだけ冷静でいられるんですか……!)
平静を装うが、内心パニックを起こしていた。
顔が目の前にある上、距離が近い。
「とりあえず、どいてもらえませんか」
「あ、うん。ごめんね、重いよね」
「重いというより…………いえ、重いです、とても」
「ひどぉぉぉっ! これでも体型には気を付けてるつもりなのに!」
「そうですか、ご愁傷さまです」
「だから! 話が噛み合ってないんだってば! それに失礼だよラウトっ」
上からどくなり騒ぎ始めたカリンを無視して、ラウトはクラウドを叩き起しにかかる。
冷静に行動しているつもりだった。
だが実際は、手が震え、声が上擦っていた。