透視した先にいたのは『対象』ではなかった。
ある意味『対象』より厄介で、面倒な相手。
それが、アホ毛を頭につけた小さな少女を連れ、満面の笑で立っていたのだった。
「イル……」
「おークラ君にキルバス公ー。君達も西に目を付けて来たってわけ?」
「も、ということは……」
「うん。不本意ながら、『対象』について一番理解しているのは僕だからね。……不本意ながらね」
不本意ながらを二度繰り返した後、眉根を寄せた。
そして溜息をつくと、くるくると回り始めた。
ラウトが顔をしかめているのに気付き、回るのをやめて笑顔を浮かべる。
「いやね、回ってたら嫌なこと忘れられる気がしない?」
「しません」
「はは、相変わらず手厳しいねキルバス公は」
「で、用件は何です? ここで立ち止まっていたのは、俺達を待っていたのではないんですか?」
「……相変わらず鋭いね、キルバス公は」
口元に薄く笑みを浮かべ、イルは双子の方を見た。
二人は抱きしめ合い、無事を喜んでいた。
カリンにおいては、瞳いっぱいに涙を溜め、精一杯笑っている。
その様子を目にしたラウトは、不快なものでも見たかのような表情をした。
いや、実際不快だったのだろう。
この学院で、思いやりなんてものは不要だ。
それを見せつけられた側の気持ちも考えてもらいたい、そういったところだろう。
ラウトの心情を察したイルは、またあの嫌な笑みで語りかけた。
「彼女、変だと思わない?」
「彼女はいつも変では?」
「あはは、確かにそうなんだけど。……キルバス公、キジュは知っているよね?」
「ええ、知っていますが。そのキジュがどうかしたんですか」
キジュ、とは、元々肉食だった植物が突然変異を起こして巨大化したもの。
カリンとイルが遭遇したあの魔物だ。
「彼女、キジュの針に刺されたんだよね」
「なっ……! しかしそれは……」
「そう……普通ならもう死んでる。だけど彼女は少しの痛みを訴えただけで、ケロッとしてるんだよ。それっておかしくない?」
ラウトは眉をひそめ、眉間に指を当てた。
彼は、悩んでいる時や心を落ち着かせたい時、決まって眉間に指を当てる。
こういうところは分かりやすいなと、イルは笑いを堪え肩を小刻みに震わせた。
もちろん、ラウトに一喝入れられたけれど。
キジュの蔓の先端部から噴出される鋭い針には、ほとんどの生物を死に至らしめるほどの猛毒性がある。
そんな毒を受けて、生きていられるのだって奇跡に近い。
カリンの歳だと免疫力が高いだろうが、それにしたってこれはおかしい。
イルの喜びそうな案件だ、ラウトはそう思った。
だが、ラウト自身も疑問を抱いていた。
魔族は耐性をつけるため、生まれた時から毒を少しずつ服用している。
だから魔族は毒に強いが、カリンはヒューマン、最も脆弱な種族のはずだ。
(どうして……彼女は……)
ラウトは、その事実に薄ら寒さを感じていた。