皆が目を覚ましたところで、朝食の調達と相成った。
何故かイルに『君はキルバス公と行きなよ』と言われ、現在ラウトと行動を共にしている。
先程の件もあり、ラウトには迷惑をかけているから、彼と行動するのは気乗りしない。
できる限り機嫌を損ねないように、離れて歩いた。
「もう少し近くを歩いてくれませんか」
「うえ?」
「自分の身ぐらい自分で守れ、と言いたいところですが……能力のない貴女ではそれも難しいでしょう」
「うん、ごめんね」
「隣を歩けとは言いません。ですが、せめてもう少し近くを歩いてください」
安心できませんと付け加え、早足になる。
思わぬ台詞に鼓動が速くなった。
「貴女が迷子にでもなろうものなら一大事です」
「ラウト、今日は優しいね……?」
「貴女が迷子になって探し回るのは誰ですか? 俺ですよね。そういったことも踏まえて発言してください、実に不愉快です」
「やっぱりそういう意味だよね……」
思ったより大きな溜息が出た。
ラウトが心配してくれるだなんて何かの間違いでは……そう思ったが、それはそれで嬉しかった。
だが、やはりそれは間違いだったようで、返ってきたのは冷たい視線と言葉の数々。
大袈裟ではあるが、溜息でもつかなければやっていられない。
無言の時間が続く。
静かな空間が苦手なカリンは、何を話題に話を切り出そうか迷っていた。
口を開いては閉じ、閉じては開き、また閉じる。
いつもなら、よくそれだけ思いつくなと言われるほど、話題に困らないのに、ラウト相手だとどうも言葉を選んでしまう。
拒絶されたくないという思いからなのか、自分が自分じゃないみたいだ。
「少し、質問してもいいですか」
「えっ……な、何!?」
背を向けたまま振り返ることもせず、ラウトは静かに言った。
それはいつもと違い、毒も冷淡さも含んでいなかった。
遠慮がちに、恐る恐るかけられた言葉。
カリンの心意を探るかのような言葉だった。
「どうして貴女はキジュの毒に…………いえ、やはりやめておきましょう。貴女に分かるはずがない」
その言葉は嫌いだ。
貴女に分かるはずがない……それは、諦めと否定の言葉だからだ。
それ以降何も話すことなく歩き続けるラウト。
頭にきたカリンは、大股で地を踏み始めた。
ラウトを追い越し、前に立つ。
怪訝な表情のラウトをよそに、彼の両頬を思いきり抓った。
「っな、ひゃにを……!」
「あはは、ラウト変な顔っ!」
「っ、殴りますよ……! う、わ……っ」
カリンの手を払いのけ、後退る。
その瞳は見開かれ、顔は真っ青になっていた。
「ど、どうしたの!?」
「別に……何でもありません」
「何でもないって顔じゃないでしょ!? 熱は……」
「いいから……触らないでください……」
「駄目! こっち向いて!!」
やっとの思いで引き剥がした手が、今度は両頬を包む。
その感覚に、ラウトは目を見開いた。
「っ……触るな!!」
「ひゃっ……!」
胸元を押さえ、ふらふらとどこかへ行ってしまった。
荒い息遣いと歪む表情が、全身が、苦しいと叫んでいたのに。
「ど、どうしたんだろラウト……」
触れた途端、こうなった。
ラウトが冷静さを欠くなど、滅多にないこと。
それも、苦痛に顔を歪ませるなんて……。
ラウトのことが気になり、自分の置かれている状況に気付いていなかった。
フォレスト・オーガに一人、取り残されたということに。