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珍しく賑わう食堂を後にし、アルスは早足に中庭へと向かっていた。
整備された芝を強く踏み、木の上へと飛ぶ。
太い枝に腰を下ろし、幹を思いきり殴った。
痛みだけが拳に残る。
怒りはいつになっても収まりそうになかった。

「何でヒューマンなんかが……!」

吐き捨てるように言った言葉は彼を追いかけてきたアグノの耳にも届いていた。

彼はヒューマンを嫌っている。
理由は知らない。
彼は過去について語りたがらないし、アグノもわざわざ聞き出そうと思わないからだ。
聞かない方がいいと思っている。
彼のためにも、自分のためにも、だ。
知ってしまえば……きっと、動きたくなってしまうから。

「アルス様、その……カリン様とクラウド様は……」
「うるせぇお前は黙ってろ!!」

びくりと肩が震えた。
それきり声が聞こえなくなり、言いすぎたかと下を覗けば俯いたまま動かないアグノの姿が。
それを確認したアルスの顔は見る見る歪んでいき、アグノの前に立つ頃には情けない顔になっていた。

「ごめんユーア……こんなの、八つ当たりだよな」
「いいえ、気にしていません。アルス様のお気持ちはよく分かりますもの。けれど申し訳ありません、私は彼女と……」
「……仲良くしたい、か?」

首を横に振る。
彼女の性格上、ああいった異質な存在は放っておけないはずなのだが。
先程は仲良く話していたように見えたが、あれは演技だったのだろうか。
嫌なら近付かなければいい、同室だからといって無理に相手をしてやる必要もないのだ。
人の良い性格がそうさせるのか、それとも何か別の目的があるのか。
まず後者はあり得ないだろう。

「私、彼女と仲良く過ごさなければならないのです。そう……絶対に」

遥か彼方、東にある故郷に想いを寄せる。
切なげに揺れる彼女の瞳に、開きかけた口を静かに閉じた。

心地好い風が髪を揺らす。
二人は揃って空を仰いだ。
胸に手を添え小さく息を漏らすアグノの髪には、木から滑り落ちた緑葉が一枚乗っている。
アルスはそれを取り、掌に乗せた。
風の影響で右に左に揺れる葉を、黙って見つめていた。

一際大きな風が二人の間を駆け抜ける。
反射的に目を瞑り、砂埃が目に入らぬよう防ぐ。
風が通り過ぎ目を開いた時、掌から葉は消えていた。

あの葉と同じように、緑の双子も消えてくれれば。
そう、何度も願った。