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「そういえば、知ってる?」

食事を終え席を立とうとした時、それを制するようにイルの質問が飛んだ。
何か企んでいそうな、嫌な予感しかしない笑みを浮かべて。

「もうすぐ適性検査があるんだよ」
「う、えぇぇぇっ!?」
「あれれ、知らなかった?」
「しししし知らないよっ!」

衝撃の事実を突然告げられ慌てふためく。

「さっきやったばかりでしょ!?」
「あれは実戦訓練。適性検査とは違うよ」

適性検査とは所謂試験のことだ。
筆記と実技から成り、その合計で順位を決定するらしいのだが。
問題なのはそれ自体ではなく、順位が寮棟の玄関に貼り出されるということ。
各教科の順位と総合点の順位が並ぶという。

「一ヶ月に一回、一週間に渡って行われる。ちなみに今回は来週だからね」
「うわえぇぇぇじゃあ勉強しないと! でもでもでもでも、私もクラウドも何も分からないから今回はなし、とかあるかもだよねっ!」
「うーん……どうかなぁ。もしそうだとしても、君達には僕達と同じだけの課題が出ると思うよ。多分一ヶ月分だけどアビリタは普通の学校と違って進むのが早いから苦労するかもね」

カリンを取り巻く空気が凍った。
記憶がなくても分かる。
自分は『課題』に弱いのだろう。
計画を立てることも駄目で、溜め込み締め切り前日に慌てるタイプだ。

終わったと諦めていると、目の前に山ができた。
突然の出来事に目も丸くなる。
よく見ると、その紙の束には一枚一枚に文字が書かれている。
何かの問題のようだ。
理解できず首を傾げるカリンの視界に入ったのはショートヘアの女性。
不敵な笑みを浮かべたその女性を、イルは『ソフィ先生』と呼んだ。

「初めまして、ね。私はソフィ=マグナム、ここの指導員よ」
「あ、初めまして! カリンって言います、これからよろしくお願いします!!」

勢い良く頭を下げた彼女に噴き出したのは……言わずもがな、である。
机を叩き爆笑する生徒を刻みたい衝動に駆られたソフィだが、あくまで自分は指導員という立場、我慢が肝心である。
咳払いをし紙の山を指差す。

「これ、あんたの課題」
「う、え?」
「一ヶ月分あるわ、もちろん適性検査も受けてもらう。生徒である以上例外は認められないのよご愁傷様。ああそれと課題の締め切りは三日後だからよろしく」

満足げに去っていくソフィを呆然と見送る。
頭が真っ白だ。
こんな塊を持ってこられてはやる気を失ってしまう。
単純な人間の心理というやつだ。
これでやる気を出す者がいるなら見てみたい。

「はいこれ弟君、あんたの分ね」
「わぁ、いっぱい。楽しそ」

……案外身近にいたらしい。
早速一部取り出し課題にとりかかろうとするクラウドをラウトが止めている。
棒付きのキャンディーを舐めながら、黙々と課題に向かう。
ラウトの制止の声などまるで耳に入っていないようだ。
結論。
自分と瓜二つの弟らしき少年は、どうやら相当不思議な性格をしているらしい。

「ふはっ……弟の方もさい、こ……!」

クラウドとラウトのやり取りに緩んでいた頬は、後ろから聞こえた声で引き締まった。
もう、つっこむ気にもなれない。