01  02  03



クラウドの手を引いて医務室から出ると、何故かイルが壁にもたれかかっていた。
その後ろにはラウトもいる。
何が気に入らないのか、腕を組みこちらを睨んできた。
負けじとこちらも睨み返すが、何の迫力もない。
カリンの奇妙な顔を見てイルは噴き出しているし、クラウドは飴の封を開けて口に含み実に幸せそうだ。

「これでは先が思いやられますね」
「ふえ?」
「入寮試験のことです。実力が伴っていないのであれば結果は自ずと見えてくる……時間の無駄だとは思いますがね」

こちらを一瞥し、また壁へと視線を戻す。
遠回しに面倒だと言われているようだ。
助っ人として同行してくれるのは有り難いが、相手がラウトだと扱いに困るだろう。
できればイルがいいなぁ、と彼の方を見ると、相変わらずの読めない笑顔。
全てを見透かされているようでどうも落ち着かない。

「カリンちゃんのパートナーは僕だよ」
「そ、そうなの?」
「あれれ、キルバス公の方が良かった? 僕には必死に訴えかけているように見えたけどなぁ……『ラウトと一緒は絶対に嫌』、ってね」
「そっそそそっそんなこと思ってないっ思ってないもん!」

図星を突かれ咄嗟に否定したが、それが逆に肯定と取られてしまったようだ。
君って本当に分かりやすいよね、そう言って笑うイルが恨めしい。
先程までは呆れ気味だったラウトも、不愉快だというように眉間に皺を寄せている。
それはもう、くっきりと、形が分かるほどに。
面倒な役を押し付けられた上にこの扱い……機嫌を損ねない方がおかしい。
頬を膨らませてイルを睨むと、肩を竦めて苦笑した。

「イルに呆れられる覚えはないよっ!」
「まあまあ、カリンちゃん。そんなことよりいいの? 君の弟君とキルバス公、行っちゃったよー?」

前方を見ると、ちょうど二人が階段前の曲がり角を折れるところだった。
慌てて二人を追うカリンの後ろをイルがついてくる、という形。
気付かれないように後ろを盗み見ると、彼はやれやれといった様子で歩いていた。

(やれやれ、はこっちの台詞だよっ、イルのアンポンタンっ)

心の中で毒づくと、後ろから盛大なくしゃみが聞こえた。
……顔に似合わず下品なくしゃみだ。
してやったり!と思わずガッツポーズを決める。
その一部始終を見ていたらしいラウトに、これまた盛大な溜息をつかれた。
もっとまともな返しができる人はいないのか、そう思ったが、自分もそう変わらない。
性格以外にそう非のない二人が相手では、欠点の方が遥かに多いカリンは分が悪い。
結局何も言い返せないまま院長室のドアを叩いていた。