気が遠くなるほど長い時の中で捨て置かれ廃墟と化した墳墓。
歴代の国王が眠る聖なる地はもうそこに存在しない。
すっかり寂れて薄暗くなった空間を日夜焼き付け、国を統べていた彼らは何を思っただろう。
その心情を思うと心苦しい。
「本当に、宜しいのですね……?」
「しつこい男だ。何度も構わんと言ったであろう」
「貴様などに聞いていない!」
躊躇することなく墓石に腰かける青年に苛立ちは募る。
今にも殴りかかりそうな勢いの男を煽るように、青年は石を叩いてみせた。
「これだけ汚れていては座れまい?」
「貴様!」
「おやめなさい! ……故国王の御前ですよ」
「相も変わらずお堅いことだ。西の奴らは皆こうなのか」
どこまでも自由に振舞う青年。
そんな彼に呆れ返った少女は、己が従者に向き直る。
先程まで怒りを帯びていた男の声も主相手には穏やかさが見えた。
「もう決めたことです、貴方も承諾したはずですわ」
「……ええ、しかし」
「鬱陶しい奴だな……男に生まれた以上二言は許されんのだ。貫き通す覚悟がないのならば初めから頷くな」
核心を突かれ口篭ると、男は口を開かなくなる。
俯き一点を見つめたまま硬く口を閉ざしてしまった。
この二人の仲違いは日常茶飯事。
だが、いざ協力という時にまでこう不仲を見せつけられると溜息をつかずにはいられない。
今後に些かな不安を抱きつつ、青年の近くに腰を下ろした。
もちろん墓石の上ではない。
青年の顔色を窺いながら手を重ねる。
前触れなしに重ねられた小さな手を一睨みすると、不機嫌そうに毒づいた。
「やはりこれは重ねねばならんのか」
「仕方のないことですわ、我慢を」
「ふん……お前のような色気の欠片もない女と手を絡めなければならないとは……世も末だな」
「貴様、無礼であるぞ!」
「だからおやめなさいと…………ああ、陽が昇りますわね」
煌々たる姿が天に昇る時、交わす契りはただ一つ。
「再びこの地で見えんことを……」
頷き合い、目を伏せる。
これから起こりうる全ての事柄に祈りを乗せて。
「……検討を祈りますわ」
ふ、と意識を手放したのは三人同時のこと。
遠退いていく意識の中、目に映ったのは薄暗い墓場を照らす天の王だった。